畜産が環境問題に及ぼす影響とは?国内外の取り組みも紹介

2023年5月9日 | 畜産農業

世界中で環境問題への意識が高まっている昨今ですが、とくに畜産業界は地球環境への悪影響を及ぼす点が多いとされ、「畜産環境問題」として槍玉に上げられることが多いです。

この記事では、具体的に畜産業界のどのような点が問題視されているのか、またそれらの問題点を克服するために畜産業界で起こっている取り組みについて解説します。

畜産業界と環境問題の関係について

まずは畜産業界と、環境問題の関係性について見てみたいと思います。

日本の”食”を支える畜産業界が環境問題にどのような影響を与えているのでしょうか。

畜産業界について

日本の食を支える畜産業界は、日本の産業の中でも第一次産業の一つに位置しています。

第一次産業とは自然との関わりが最も強い産業のことで、漁業、農業、林業が、第一次産業に当たります。

農業の中には、野菜やお米を育てる耕種農業や、牛や豚や鶏を育てる畜産農業が含まれます。

畜産農業の中でも、さまざまな農家さんが私たちの食事に貢献してくれています。

  • 牛乳が飲めるように、牛を育てて乳を販売する酪農農家さん
  • 牛肉が食べられるように、上質な牛肉を販売する肉牛農家さん
  • 卵が食べられるように、新鮮な卵を販売する養鶏農家さん

畜産といっても、細かく仕事が分かれていることが特徴です。

私たちの暮らしに欠かせない畜産業界が、どれほどのお金を生み出し、日本経済に貢献しているかを見てみましょう。

農林水産省がまとめているデータによると、畜産業界が生み出したお金は令和3年では3兆4048億円となっています。(生乳:23%、肉用牛:24%、豚:19%、鶏:28%)

3兆4048億円とは、一人あたりの年収が500万円だとして、60万人分の収入の合計にも当たる膨大な金額を生み出しているといえます。

さらに畜産業に従事する労働人口は、28万人と言われており、日本人のうち500人に1人が畜産関係の仕事についています。

これだけ重要な日本の産業であり、私たちの生活に欠かせない食事は、農家さんによって支えられてきたのです。

(出典:畜産・酪農をめぐる情勢

環境問題を取り巻く時代背景

環境問題を取り巻く時代背景についても見てみましょう。

日本における環境問題への取り組みの大きな転換点になったと言われているのが、京都議定書の採択がされた1997年だと言われています。

京都議定書では二酸化炭素を含む温室効果ガスに対し、先進国の排出削減についての数値目標が定められました。

京都議定書が採択された地球温暖化防止京都会議には、世界各国のリーダーが参加し、世界の足並みを揃えて環境問題に取り組むと、国際的な約束を交わしました。

一例として、先進国全体の温室効果ガスの平均年間排出量が1990年の総排出量の95%以下になるように、各国の目標を定めました。

日本でも排出削減目標が設定されたことにより、日本政府を中心に、日本企業や日本国民が排出量を削減するために取り組みを始めることになりました。

そこから時代が進み、2015年9月の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が採択されました。

SDGsとは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。

17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。

SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組む普遍的なものであり、日本としても積極的に取り組むことになりました。

(出典:SDGsとは?)

畜産業界と環境問題との関わり

それでは畜産業界が環境問題として取り上げられる要因は、どのような点があるでしょうか。

京都議定書で言及されてきた温室効果ガスの観点、SDGsの持続可能な開発目標に挙げられている項目の2つから、みていきましょう。

京都議定書では、温室効果ガスの削減が目標としてあげられていました。

温室効果ガスを構成するのは、二酸化炭素や、メタンガス、一酸化二窒素などがあり、実は、畜産業はたくさんの温室効果ガスを排出しています。

世界で発生してる温室効果ガスの 14.5% は畜産家畜に起因しているといわれます。

なかでも、一般的な家畜糞尿の堆肥化過程で発生するメタンや亜酸化窒素は、二酸化炭素よりも遥かに強力な温室効果ガスとして世界的に批判にさらされています。

家畜の排泄する糞尿、牛が食べた飼料が消化される際に発生するメタンガスが、温室効果ガスに該当しています。

SDGsには持続可能な開発目標があり、その中でも、既に触れている気候変動の他にも、森林開発、安全な水の確保など、畜産業界に深く関係しています。

次の章ではもう少し詳しく、畜産業が地球環境におよぼす影響に目を向けてみます。

畜産業が地球環境におよぼす悪影響

メタンガスを含む温室効果ガスの排出

地球温暖化が進み、地球全体の温度が上がっていると言われています。

温暖化の大きな要因として、二酸化炭素や、メタンガスなどの温室効果ガスが挙げられます。

温室効果ガスの排出に対して、畜産業界の中でも牛の消化管内発酵(げっぷ)や家畜排せつ物が大きく関係してきます。

牛の消化管内発酵には、メタンガスが多く含まれており、二酸化炭素の25倍の温室効果があると言われています。

なぜ、牛のゲップには人間とは異なりメタンガスが含まれているのでしょうか。

牛には胃が4つあり、たくさんの微生物が生息しています。そこでは、牛の食べた餌が微生物のはたらきによって盛んに発酵を繰り返すことで、大量のメタンを生み出しています。

牛の身体を大きくするためにも、たくさんの餌を与えなければいけません。そのため、畜産業界では多くの温室効果ガスを発生させてしまうのです。

水質汚濁/地質汚染

畜産業によって排出される家畜の排泄物が、水や地質を汚染させていることも問題とされています。

汚染を防ぐためにも排泄物の管理は法律によってルールが決められていますが、農家さんによっては管理しきれておらず、近隣住民からの苦情に繋がったり、知らず知らずのうちに環境に悪影響を及ぼしてしまっています。

家畜から出る排泄物は、農林水産省の調べによると、年間で8000万トンにも及ぶと言われています。

一例として東京ドーム約65個分がいっぱいになる量で、かなりの量だといえます。

環境問題と言われてしまう家畜の排泄物ですが、本来は適切に管理することで作物を育てる良質な堆肥として重宝されています。

家畜の排泄物の一般的な管理方法は、屋根付きのコンクリート地面である管理場所に排泄物を積み上げ、一定期間保管します。保管している途中で攪拌(かくはん)といった、積み上げた排泄物に空気を混ぜる作業を行うことで、良質な堆肥が出来上がります。

そして出来上がった堆肥は畜産農家さんから、野菜を育てる農家さんに販売され、畑に堆肥がまかれて循環が繰り返されるのです。

本来の循環を崩してしまい、環境問題として取り上げられてしまう要因はどのようなことでしょうか。

家畜を育てるために毎日、飼料を与えています。それらが、糞や尿として排泄された物が排泄物の管理場所の許容量を超えてしまったり、管理が面倒になってしまうといった原因が問題視されています。

その結果、管理しきれなくなった排泄物を畑の上に積み上げてしまったり、地面の中に埋めてしまう農家さんもいるようです。これらは法律に反する行為です。

穀物の大量使用/森林破壊

家畜を育てるためにたくさんの餌(飼料)が必要になります。実は、飼料のほとんどは海外産のものを輸入しています。

牛が食べる飼料の一例として、とうもろこし、牧草、ワラやススキなどがあります。日本で育てる家畜のほとんどは、海外の餌を食べているような状態です。

農林水産省によると、牛肉1kgの生産に必要な穀物の量はとうもろこし換算で11kg、同じく豚肉では6kg、鶏肉では4kgと言われています。

そのため餌を作るためにも、広大な農地が必要となります。

(出典:その4:お肉の自給率

世界人口の増加に応じて、家畜を育てるためにこれまで以上に飼料の量が必要とされており、合わせて飼料の原料になる穀物の土地の開発が進められています。

その結果、家畜の生産量に合わせる形で森林を伐採し、新しく農地を開発が進行しています。

本来であれば、今ある畑でも餌の生産は間に合うものの、農地の手入れができていないために、農地が栄養不足に陥り十分な穀物を育てることができにくくなっているということも問題視されています。

畜産業界の取り組み事例

畜産業界の日々の営みが、環境に対して負荷を与える原因になっていることがわかりました。

しかし、世界の人口増加による、お肉や牛乳、卵のニーズは高まっているという点では、農家さんも経営、環境問題への取り組みついて、頭を悩ませています。

世界各国で環境保護が謳われ、SDGsの目標に対して取り組みを着々と進めています。

これまで変えることができなかった畜産業界の産業構造や、仕組みを変えようとする取り組みが日本でも促進されています。

日本での取り組みをいくつか紹介したいと思います。

自給飼料生産

畜産農家の多くは、海外の輸入飼料に頼らざるをえない経営を行っていました。その結果、間接的に森林伐採を後押ししたり、農地の栄養を枯らしてしまっています。

そこで、北海道のJA道東あさひでは、地域の課題である草地を増やす取り組みを進める決断を行いました。

北海道の土地の特性として、広大な土地があり、牛を放牧させる手法をとっている農家さんも多くいます。

その放牧で重要となる草地を増やすことで、自給の飼料を作るといった取り組みが評価されています。

家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用

家畜の排泄物を利用し、新しいエネルギーに作り変えるといった取り組みが進められています。

農林水産省 農林水産政策研究所が進める取り組みとして、家畜の排泄物を発酵槽でメタン発酵させ、畑に使う液肥や、電気を生み出す研究を進めています。

(出典:家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用

排泄物を集めてメタン発酵させる利点として、家畜排泄物管理のが作業が軽減されたり、 堆肥を作るための木の屑の購入が不要になります。

また、これまで畑に積み上げることしかできなかった農家さんが減り、水質汚濁や河川汚染を防ぎ、環境への負荷を掛けない経営の実現が期待されています。

大規模な投資が必要で導入ハードルの高い取り組みではありますが、大規模農場を中心に実用化が進められています。

飼料によるメタンガスの削減

近年注目されている技術の一つに、家畜に与える飼料に細菌を取り入れるという取り組みが進められています。

家畜が摂取しても体に良いとされる乳酸菌や好熱菌を、飼料に混ぜることでメタンガスを抑制させる技術です。

九州大学が進める理化学研究所との共同研究によると、好熱菌を和牛子牛に与えたところ、飼育効率が高まり、メタンを発生させる細菌が減少するといった結果を公表しました。

細菌の培養であったり、メタンの削減効果の検証が進められており、飼料に混ぜるだけという簡易さが期待されています。

(出典:牛の「げっぷ」メタンガス減らす飼料 メニコンが開発

また、弊社が取り扱っている乳酸菌(家畜用 NS 乳酸菌)を含む飼料を活用した栃木県のある繁殖用の雌牛農家様では、メタンガスの削減効果を含む結果を得ることができました。

本研究では、給与した乳酸菌ごとに繁殖牛を4グループに分けて、第一胃内におけるメタンの生成量の変化を比較しました。

結果、弊社の NS 乳酸菌を給与したグループにおけるメタン生成量が有意に低下したことがわかりました。

これらの例からもわかるように、牛たちの日々の食事における工夫を個々の農家が行うことで、地球規模のインパクトが期待できるのです。

私たちにもできること

スーパーで販売されているお肉や牛乳ですが、お店に並ぶまでに環境に関する問題と関係していたことを知りました。

日本の食卓を守る畜産は、世界的にも必要不可欠な産業といえます。

ただ槍玉に上げるのではなく、どのような工夫をすれば地球環境と共に共存していけるか前向きな取り組みを考えることのほうが重要です。

私たちにできることはあるのでしょうか。

私たちができることの1歩目は、起きている問題に「興味を持つ」ことです。

畜産業界で起きている問題について、家族や友達に聞いてみてください。

「なぜ、問題なんだろう」「なぜ、このようなことが起きているのだろう」といった疑問を、誰かと話す機会を作ると、様々な意見が出てきます。

今後も環境問題と畜産業界の動向に注目していきましょう。

田仲 悠介

田仲 悠介

この記事を書いた人

社会的農業ラボに所属する若手ライターです。 畜産農家さんへの貢献と社会的農業の実現に向けて、日々勉強中です。 まだ業界知識に乏しいものの、農業と畜産業界の重要性を理解し、知識を深めるために日々勉強しています。 畜産農家さんのニーズと地球環境の両方に配慮した結果を生み出すことに貢献したいと考えています。 WEB記事の作成においても、最新の研究成果や実践的なアドバイスを農家さんに届けていきたいです。

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