農家を悩ませる牛舎の臭い!原因と対策4選

2023年3月29日 | 畜産農業

畜産業を営む農家さんや、その周辺地域の居住者、来訪者をも悩ませる、牛舎の悪臭。

畜産と臭いは切っても切れない関係で仕方のないものだと諦めている方もいらっしゃいますが、実は、適切な対策を取ることで、牛舎の臭いは軽減させることが出来るんです。

たかが臭い… と対策を取らずにいると、農場経営の根幹を揺るがしかねないリスクをはらんでいるのが、畜舎の悪臭。

本記事では、牛舎の臭いが引き起こす問題や悪臭の原因を解説した上で、4つの臭い対策を紹介しています。

牛舎が臭くなる原因

臭いの成分

牛舎の臭いの元となっている成分は一体なんでしょうか?

主な要因は、牛の排泄物に含まれるアンモニアと硫化水素です。

アンモニアは 1ppm(空気中で100万分の 1 の濃度)で、悪臭を感じると言われています。アンモニアの悪臭は、清掃の不十分なトイレのあのツンとした臭いです。

アンモニアは排出された糞尿の中に溶けていますが、液体から気体に気化するときに、嫌な臭いとして空気中に留まります。

牛を成長させるためには、多くの餌と水が必要となります。牛の体は大きく、1日あたり、人間の約20倍相当の食事を行います。

例えば、弊社のお手伝いさせて頂いている酪農農家さんからのヒアリングによると、搾乳牛の場合、1日の1頭あたり糞便約45kg、尿は約15kgも排泄すると言われています。

臭いが発生するしくみ

牛舎の臭いの成分がわかったところで、どのように畜舎に臭いが発生するかを見ていきましょう。

アンモニア以外にも、糞尿には、多種多様の悪臭物質が含まれています。

糞尿が牛の体に付着すると、表面積が増えることに加え、体温で温められ、悪臭物質がさらに揮散しやすくなります。

毎日牛の体を清掃できるのであれば、臭いが軽減されることも想定されますが、実際の牛舎では、日々のルーティン業務や、最低限の床替え等で、手が回らない現状です。

しかしながら、全ての牛舎が悪臭を放っているという訳ではありません。

弊社がお手伝いさせていただいている畜産現場の中にも、牛舎の臭いを抑えることに成功し、牛、従業員の方々、近隣住民の三方良しの関係を築いている方々が多数いらっしゃいます。

牛舎の悪臭問題によるリスク

近隣からのクレーム・トラブル

平成27年9月に、農林水産省が発表しているデータには、前年26年では、1751戸の畜産経営者に対して、近隣からのクレームがあったと報告されています。

1751戸とは、全農家のうち2.2%に当たる戸数であり、クレームの中でも56.6%が悪臭に関する報告であったそうです。

(出典:平成27年9月 農林水産省 生産局 畜産部 畜産企画課 畜産環境・経営安定対策室「畜産経営に起因する苦情発生状況」

住宅が集まる土地に牛舎を建設していることも多く、地域住民との牛舎経営環境をめぐる話し合いは、重要になっています。

弊社の担当している、大阪の住宅街で牛舎を運営している経営者さんは、住民への説明や、牛舎内の臭い対策を実施し、トラブルを抑える取り組みを継続しています。

一方で、対策が追いついておらず、トラブルが頻繁に発生する農家さんや、臭気対策の資材を取り入れても効果が出ず、臭いを抑えることができていない農家さんもいらっしゃいました。

近隣住民の理解を得ることができず、経営が立ち行かなくなった農家さんともお話しすることもありました。

その際には、「怪文書が届いたこともあり、ノイローゼになりそうだった」という言葉が、今でも印象に残っています。

度を超えると行政指導なども

牛や家畜を育てる際に、トラブルを放置し続けた結果、どのようなことが起きるでしょうか。

かならず意識しなくてはならないことは、行政からの指導です。また、行政指導が行われた後も苦情の原因が解決していない場合、罰金に処されることが法律で定められています。

環境省によると、悪臭防止法に基づき、6段階の臭気レベルに分類分けをしています。

地域の行政は、トラブルになっている臭いの程度を計測するため、改善状況を視察します。

近隣住民等から苦情が発生し、苦情が解決するまで、段階的に行政措置が取られます。

行刑からの停止の命令に違反した時、違反行為をした指定機関の役員又は職員は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金となるケースがあります。

近隣住民が苦情として行政に報告する場合もあれば、従業員から匿名の報告があり、行政役員が牛舎を視察する場合があります。

そのため、近年の畜産農家の経営者からは、「常に臭い対策を怠れない」「周囲の目を気にして清掃をしている」などの声を度々耳にするようになりました。

労働環境の悪さ、従業員満足度の低下

また、慢性的な牛舎の悪臭を放置しておくことは、牧場の労働環境の悪化や、従業員満足度の低下にもつながりかねません。

一般的な牛舎での作業となると、臭いが衣類に付着します。

牛舎で作業をされる従業員の方には、作業着の洗濯・消臭や、体にまで染み付くような畜舎の悪臭への対処に頭を悩まされる方が多いようです。

従業員の多くは帰宅後すぐにシャワーを浴びなければ、衣類から、事務所や、自宅の家具にも、臭いが移る可能性があることから、臭いに対して敏感になります。

弊社の支援している岐阜県のある牧場では、事務所にシャワー室が設置をされており、作業の合間や作業後にシャワーを浴びて外出するケースもあるそうです。

しかし、牛舎での作業ごとにシャワーを浴びているようでは、作業効率も低下することから、経営者の頭を悩ませます。

家畜の病気

牛舎の臭いは人間に嫌な思いをさせますが、牛たちにとっても大きなストレスであり、疾病の原因になります。

牛舎の悪臭の慢性化に伴いって、牛が食欲不振になることや、感染症が発生することが見られることを、しばしば農場様よりご相談をいただきます。

牛舎の臭いの主成分であるアンモニアによって、強いストレスがかかり、免疫力が低下するためウイルスや細菌、マイコプラズマ などに複合感染し、肺炎など症状の重篤化につながります。

牛が病気にかかると、生産性に大きく影響します。牛舎全体の臭いは人間だけでなく、牛の健康状態を良い状態に保つために重要な要素と言えます。

牛舎の臭いへの対処法3選

放置しておくと、牧場の安定経営をも揺るがしかねないリスクとなるのが、牛舎の悪臭です。

ここからは、牛舎の臭いに対してすぐにとることができる対策を4つ紹介していきます。

また、それぞれの対策で期待できる効果や想定される費用も比較しています。

次にとるべき対策を検討する上で、参考にしてみてください。

1. 糞尿の早期分離と清掃

【対策内容】

1つ目は非常に基本的なことですが、畜舎の素早い清掃です。特に、別々に排出された尿と糞は早期に分離することが重要です。

なぜなら、糞に含まれる特定の微生物の働きにより、排出された尿中の尿素が分解されてアンモニアを発生させることで、悪臭がより強くなるためです。

畜舎の臭いは、舎内に堆積している糞尿の量に左右されます。

弊社の支援している農場様では、家畜の表皮についた糞尿を取り払うため、毎朝・毎夕のブラッシングを行っているケースもございました。

清掃に合わせて、敷料を新たに撒くことで、牛舎を常に綺麗な状態にすることができます。

【臭いに対する効果】

臭いの元となる糞尿の清掃のため、即効性が期待できます。

常に牛舎をクリーンにすることで、臭いが籠ることも少なく、適切な頻度で実施できれば確実な効果が期待できます。

【運用コスト】

畜舎の糞尿の清掃は、すぐに着手ができ、効果的な対策と言えます。

しかしながら、清掃を行う頻度や牛舎の広さ、牛舎の形態に応じて、清掃労働コストは大きくかかります。

就業人口の少ない畜産業界では、搾乳作業や、餌だしなど、1人あたりの業務が多い中で、清掃業務のコストは大きな負荷になっています。

さらに、清掃ごとに敷料を撒く作業や、敷料の購入費も増加します。

総合的なコストを考慮すると、継続的に運用していくハードルは高いと言えます。

2. 畜舎の換気

【対策内容】

発生してしまった悪臭を牛舎に充満させないためには、換気は基本的な対策と言えます。

そもそも牛舎の換気とは、牛舎の床に溜まる糞尿による湿気を除去し、空気を循環させることが目的とされていました。

牛舎に換気扇のファンを取り付けたり、舎内の空気循環をよくするために送風機を設置している農場様は多いです。

【臭いに対する効果】

牛舎に臭いが充満することを回避できるため、従業員や牛へのストレス軽減に寄与します。

しかし、臭い常に外に出ていくため、近隣住民からの理解が求められます。

【運用コスト】

導入初期に、大きな投資が必要になります。また、換気扇を回す電気代、メンテナンス費用の継続した発生が想定されます。

換気扇一つにしても、10万円〜20万円ほどが設定価格となっています。

広い牛舎に複数つけるとなるとそのコストは膨大になるため、すぐに着手できない場合も多いようです。

3. 飼料を変える

【対策内容】

ここまでに挙げた方法はいずれも、悪臭の原因物質を含んだ糞尿がすでに排出されてしまってからの対処でした。

一方で、そもそも大元である悪臭成分を家畜の体内から断つために、家畜の飼料に生きた菌や微生物を混ぜる取り組みが近年注目されています。

人間が乳酸菌などの微生物を摂取するように、牛にも生きた菌を食べさせるという、畜産業界で注目されている新しい技術の一つです。

例えば、牛が菌を摂取した時、体内でバクテリアが増殖し、消化道・呼吸道・生殖道に行き渡り、菌が生きたまま糞や尿として排泄されます。

牛から排泄された生きた菌は、敷料や、消化しきれなかった餌をエネルギー源とし、臭いの原因となる物質を分解するはたらきをします。

【臭いに対する効果】

バクテリアや生きた菌は、悪臭物質になる前に腸内でしっかり分解して、体内でアミノ酸につくり替えることができるため、悪臭の元がない状態で糞尿から排出されます。

臭いの原因に着手することで、臭い削減に期待が寄せられます。

弊社の扱っている乳酸菌を含む飼料である 家畜用NS 乳酸菌添加飼料 をご利用いただいている農場様では、「牛舎からの臭いが軽減され、服に臭いがつかなくなった」といった効果を実感いただいています。

参考: 乳量と乳質に効果。夏場も快適な戻し堆肥のベッドを好んで牛が休んでいます(山本牧場様)

また、住民から反対を受けながら新設された牧場様では、開業当初からNS乳酸菌をご利用いただくことで牛舎の悪臭は出ず、懸念されていた近隣のクレームも出ませんでした。

参考: 近隣住民から懸念された牛舎の悪臭はゼロ。発育成績が年々向上(飛騨かわい牧場様)

上記の他にも、牧場では、導入後たったの 3ヶ月で酷かった牛舎の悪臭が完全になくなるほどの効果を発揮したケースなどは珍しくありません。

【運用コスト】

普段与えている餌に混ぜる微生物含有の飼料として製品が販売されており、価格は20kgあたり 20,000~40,000円程度で購入が可能です。

餌に混ぜるだけなので、簡単に導入が可能です。

それぞれの対策の比較

効果着手安易度運用コスト
糞尿の早期分離と清掃
敷料
換気✖️
飼料を変える

まとめ

この記事では、関係周囲を巻き込んだトラブルや、生産性へ影響する「牛舎の悪臭問題」について焦点を絞りました。

畜舎の臭いは当たり前だと思って放置していると、近隣トラブルや行政指導、また従業員の士気低下にも繋がってしまい、経営の根幹を揺るがしかねない問題です。

まずは、大きな投資をしなくてもすぐに着手できる清掃の徹底から改めて見直していきましょう。

どれだけ清掃の徹底やできうる限りの設備投資を行っても、畜舎の臭いに改善がみられなかった… という農場様には、悪臭の根本原因を断つにあたって弊社がお力になれるかもしれません。

ご相談をお待ちしています。

田仲 悠介

田仲 悠介

この記事を書いた人

社会的農業ラボに所属する若手ライターです。 畜産農家さんへの貢献と社会的農業の実現に向けて、日々勉強中です。 まだ業界知識に乏しいものの、農業と畜産業界の重要性を理解し、知識を深めるために日々勉強しています。 畜産農家さんのニーズと地球環境の両方に配慮した結果を生み出すことに貢献したいと考えています。 WEB記事の作成においても、最新の研究成果や実践的なアドバイスを農家さんに届けていきたいです。

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